東京高等裁判所 昭和28年(う)2074号 判決 1953年11月30日
控訴人 被告人 高柳栄 外一名
弁護人 大島染吉 外二名
検察官 野中光洽
主文
本件各控訴を棄却する。
理由
被告人高柳栄の弁護人大島染吉、同横川紀良及び被告人折茂政衛の弁護人佐藤忠良の各控訴趣意は別紙記載のとおりで、これに対し次のように判断する。
横川弁護人の控訴趣意第三点の二及び佐藤弁護人の控訴趣意二の2について。
取引高税印紙が印紙犯罪処罰法制定当時存在しなかつたことはいうまでもないところであるが、そのことを理由として同法にいう「印紙」中に取引高税印紙を含まないとする論旨の当らないことは原判決の指摘するとおりである。およそ印紙とは、国庫の収入となるべき租税手数料その他の収納金を徴収するために政府が発行する一定の金額を表彰する証票を指称するのであつて、かかる要件を具えるものである以上、収入印紙たるとその他の印紙たるとを問わずこれに含まれると解すべきことは、印紙犯罪処罰法が印紙の偽造、変造、消印の除去、その使用、交付その他の所為を処罰することとしている立法の趣旨からいつても、また同法の前身たる旧刑法第百九十八条等の施行当時数種の印紙が存在し、従つて右法条が「官ヨリ発行スル各種ノ印紙」と規定していたことからも明らかであるといわなければならない。そして、すでに廃止された取引高税法(昭和二三年法律第一〇八号)第十一条第一項には、「取引高税の納付義務者は、………取引高税印紙をもつて、取引高税を納付しなければならない」と規定されており、またその発行者・形式等からみても取引高税印紙が前述の要件を具えていることは明らかであるし、なお論旨引用の印紙をもつてする歳入金納付に関する法律(同年法律第一四二号)を見ても、印紙すなわち収入印紙に限るとの趣旨は全く窺うことができず、むしろこれによれば収入印紙も取引高税印紙もともに印紙の一種であることが一層明らかに知られるのである。これを要するに、原判決がこの点につき委曲を尽して説明していることはまことに正当であつて、論旨は理由のないこと明らかである。
(その他の判決理由は省略する。)
(裁判長判事 大塚今比古 判事 河原徳治 判事 中野次雄)
佐藤弁護人の控訴趣意
二の2 取引高税印紙は印紙犯罪処罰法に所謂印紙でないことは印紙犯罪処罰法制定の時期、印紙を以てする歳入金納付に関する法律にあつても収入印紙と取引高税印紙と区別している点からも明らかである。然るに原判決は之を混同して適用したことは法令の適用を誤つたもので破棄を免れないものである。
横川弁護人の控訴趣意
第三点の二 取引高税印紙に就て。
一、原判決は、印紙犯罪処罰法を適用して、被告人高柳に対し、有罪判決の言渡をされた。
二、然しながら、本件印紙中には、取引高税印紙も含まれており、印紙犯罪処罰法制定当時予想もしなかつた取引高税印紙をも同法に所謂印紙に該当する旨判示せられたのは印紙犯罪処罰法の解釈を誤つたものであり、この点において、原判決は、取消さるべきものと信ずる。